こんにちは。
世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている坂上デンタルオフィスの坂上斉です。
「痛みも腫れもないのに治療が必要なんですか?」
これは、今回の患者様が来院されたきっかけでもあり、多くの方が疑問に思われることかもしれません。
実際、今回ご紹介する症例でも、痛みのない状態で、他院での定期健診のCTにより根の先に黒い影(骨がない部分)が見つかりました。
歯ぐきや唇のしびれ、痛みなどの症状はないものの、黒い影が下顎管(神経や血管の通り道)に近接している状態で、さらに歯の構造が複雑な「樋状根(といじょうこん)」という特徴を持つことから、治療は慎重を要するものでした。
初診時の状態:症状がないのにCTで見つかった「黒い影」
患者様は、他院での定期健診の際に撮影されたCT画像で、左下7番(第二大臼歯)の根尖に黒い影(骨がない部分)があると指摘され、専門的な診断と治療を希望して当院を受診されました。
検査と診断:CT診断とレントゲンで分かった「樋状根」と神経との距離
- 自発痛:なし
- 打診痛:軽度
- 圧痛・腫脹:なし
- レントゲン・CT所見:根尖の骨がなくなっており、下顎管とつながっている
- 解剖学的特徴:樋状根(複雑な根管形態)、根尖部にわずかな湾曲あり
樋状根と神経の近接が治療を難しくする
以前のブログ「当院での根管治療(10)」でもご紹介したように、「樋状根」は非常に複雑な根管形態を持つため、治療が難しく、予後が悪くなる可能性があります。
今回の症例では、その樋状根に加えて、根尖部の炎症によって骨が失われた部分が、「下顎管(かがくかん)」とつながっていることが、レントゲンとCTで確認されました。
■ 下顎管とは?
下顎管とは、下あごの骨の中を通る細いトンネルのような構造で、その中には「下歯槽神経」や「血管」が通っています。
この神経は、下の奥歯や歯ぐき、下唇やあごの皮膚の感覚を司っているため、治療中に誤って刺激したり損傷してしまうと、
- 顎や唇にしびれが出る
- 感覚が鈍くなる、麻痺が残る
といったリスクが生じることがあります。
このような理由から、下顎の奥歯の根管治療では特に慎重なアプローチが求められます。
とくに女性は顎の骨が小さく、歯の根と神経の距離が短いことが多いため、より注意が必要です。
ファイル試適の意義と治療の工夫
治療にあたっては、CT画像を参考にしながら、根管の形態と神経との距離を正確に把握し、**ファイル試適(根管内の長さや形態を確認するプロセス)**を慎重に行いました。
とくに以下の点に注意を払いました:
- 根管の長さの正確な測定
→ 下顎管との距離を考慮し、安全な範囲で根管長を決定。 - 根管形態の把握
→ 樋状根の複雑性をCTと照らし合わせながら確認。 - 病変と神経の位置関係の確認
→ 根尖病変が神経と近接しているため、過度な拡大は避ける。
治療中は、患者様に顎のしびれや違和感がないかを逐一確認しながら慎重に進めました。
経過観察:黒い影の消失と骨の再生を確認
治療後、「念のため再確認したい」とのことで、根管充填から2年後にレントゲンとCTを撮影しました。
- 腫れ・痛み・しびれなどの症状は一切なく、非常に安定した状態
- 根尖部にあった黒い影は完全に消失し、骨がきれいに再生していることを確認
まとめ:「痛くないから大丈夫」は危険?症状がなくても注意すべき黒い影
根管治療は一度目の治療がとても重要です。
同じ歯を何度も治療すると、そのたびに歯は削られ、治癒しにくくなり、寿命も短くなってしまいます。
だからこそ、最初の治療をいかに精密に行うかが、歯を長く守るうえで非常に大切です。
また、今回のように痛みや腫れがなくても、定期検診で撮影したレントゲンやCTによって、思いがけず問題が発見されることがあります。
そうした異常を早期に発見し、適切な処置を行うことで、歯や神経の健康を守ることが可能になります。
もし気になる症状や不安な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
📍坂上デンタルオフィス
東京都世田谷区玉川3-14-8 3階
TEL:03-6805-6546
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
日付: 2025年3月17日 カテゴリ:根管治療, 症例, 院長ブログ and tagged CT診断, ファイル試適, マイクロスコープ, ラバーダム, レントゲン, 下歯槽神経, 下顎管, 根尖病変, 根管治療, 根管治療専門, 樋状根, 症状がない歯の治療, 神経に近い歯の治療, 精密根管治療, 複雑な根管形態, 黒い影